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【コラム】FT合成技術(フィッシャー・トロプシュ合成)

研究開発
次世代エネルギー技術

 

FT合成技術(フィッシャー・トロプシュ合成)
CO₂と水素から液体燃料を製造する革新的な技術、カーボンニュートラル社会実現への切り札

 

FT合成技術で実現するカーボンニュートラル燃料


1920年代にドイツで発見されたフィッシャー・トロプシュ(FT)合成技術が、今カーボンニュートラル社会の実現に向けて再び注目を集めています。
この技術は、一酸化炭素(CO)と水素(H₂)から液体の炭化水素燃料を製造する画期的なプロセスです。
約100年の歴史を持つFT合成は、当初は石炭や天然ガスから液体燃料を作る技術として発展しました。
しかし現在では、二酸化炭素(CO₂)と再生可能エネルギー由来の水素を原料とした「e燃料」製造技術として大きく注目されています。
この技術により、大気中のCO₂を回収して再び燃料に変換する「炭素循環システム」の構築が可能となり、真のカーボンニュートラル燃料の実現が期待されています。

※FT合成では触媒表面でCOとH₂が反応し、炭化水素鎖を形成して液体燃料を生成します。

 

FT合成の基本原理

FT合成は、触媒表面で起こる連鎖反応によって炭化水素を合成します。基本となる化学反応式は以下の通りです:

CO + 2H₂ → –(CH₂)– + H₂O

この反応では、一酸化炭素が段階的に水素化されてメチレン基(=CH₂)に変化し、これが触媒表面で次々と重合して長い炭化水素鎖を形成します。

生成される炭化水素の炭素数にはアンダーソン・シュルツ・フロリー(ASF)分布と呼ばれる幅広い分布があり、メタンから重質ワックス(炭素数20以上)まで様々な成分が同時に生成されます。

 

使用される触媒と原料

現在、FT合成で実用的な触媒は主に以下の3種類です:

コバルト(Co)系触媒
現在最も広く商業プラントで使用されている触媒です。中温域(200~240℃)で動作し、主に長鎖パラフィン(ワックス・軽油成分)の合成に適しています。天然ガス由来の合成ガスに最適で、副生するCO₂が少ない利点があります。ただし、コバルトは高価なレアメタルで、電気自動車需要により価格が高騰している課題があります

鉄(Fe)系触媒
安価で資源豊富なため、大規模プラントで古くから使用されています。高温(約300℃)で動作し、石炭やバイオマス由来の合成ガス(CO濃度が高い)に適しています。水性ガスシフト反応も触媒するため、H₂/CO比の調整が可能ですが、副生CO₂が多く、劣化しやすい欠点があります⚙️

ルテニウム(Ru)系触媒
極めて高い活性を示しますが、希少金属で非常に高価なため、商業的な大規模生産にはほとんど使用されていません

 

実用化事例

FT合成技術は世界各地で実用化されております。日本の事例をご紹介します:

■日本の取り組み
JOGMECと民間企業コンソーシアムが開発したJAPAN-GTLプロセスでは、新潟市で日量500バレルの実証プラント運転に成功(2009~2012年)。

引用:カーボンニュートラルで話題の「合成燃料(e-fuel)」とは?そのメリットから製造方法まで解説!(JOGMEC)
 

環境・経済面のメリットと課題

【主なメリット】
・多様な資源(石炭、天然ガス、バイオマス、CO₂)から液体燃料製造が可能
・硫黄や芳香族を含まない高品質燃料の生成
・既存のエンジンや流通インフラをそのまま活用可能
・副生成物から高付加価値製品(パラフィンワックスなど)の創出

【主な課題】
・石炭由来の場合、ライフサイクルCO₂排出量が石油の約2倍
・設備投資・生産コストが高額(Pearl GTLは総工費約190億ドル)
・コバルト触媒の高コストと供給リスク
・ASF分布により望まない成分(メタンや重質ワックス)も同時生成
・多量の水とエネルギー消費

 

将来性と市場動向

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、FT合成技術は新たな展開を見せています:

■持続可能航空燃料(SAF)への期待
航空業界の脱炭素化において、FT合成由来の合成ジェット燃料が有力候補となっています。

■政策支援と市場予測
欧州連合(EU)は合成燃料をグリーン戦略上の重要技術と位置づけ、日本政府もグリーンイノベーション基金を通じて技術の商業化を推進中です。世界各国で合成燃料生産プロジェクトが進行し、2030年代以降の本格的な需要拡大が期待されています。

 

技術革新の動向

■小型分散型技術
英国Velocys社のマイクロチャンネルFT反応器は、反応熱を迅速に除去でき、高効率でコンパクトなFT合成を可能にします。

Velocys>Envia GTL Plant

 

FT合成技術は、20世紀に「石炭やガスを液体燃料に変える技術」として発展しましたが、21世紀においては「CO₂を循環利用する技術」として再評価が進んでいます。技術革新と実証プロジェクトの成果により、持続可能な社会への転換において重要な役割を果たすことが期待されています。

 

引用

・JOGMEC(カーボンニュートラルで話題の「合成燃料(e-fuel)」とは?そのメリットから製造方法まで解説!)
・アイアール技術者研究所3分でわかる FT合成とは?FT合成触媒の注目研究事例も紹介!

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