【研究者インタビュー】兵庫県立大学大学院 工学研究科 伊藤省吾教授
研究開発
次世代エネルギー技術
記事内の表現や解釈は、取材内容をもとに当社が文章等を調整しているため、一部の説明が簡略化されている場合があります。
詳細な情報や最新の状況については、当社までお問い合わせください。
インタビュイーのご紹介
兵庫県立大学大学院工学研究科 材料・放射光工学専攻工学博士 教授
産学連携・研究推進機構 水素エネルギー共同研究センター長
学長特別補佐(異分野融合研究推進担当)
伊藤省吾教授
伊藤研究室のURLはこちら
次世代太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池。
その実用化に向けた研究開発の第一人者である、兵庫県立大学大学院工学研究科の伊藤省吾教授へインタビューさせていただきました。
伊藤教授は、「多孔質カーボン電極」を用いた独自のアプローチで国内外から注目を集めています。中国製のシリコン太陽電池よりも安価な製品を国内で実現することで、日本のエネルギー自給率向上と電力料金の引き下げに貢献することを目指しており、2030年までに,送電電力価格である25円/kWh以下の価格の電力を供給出来るシステム構築をビジョンとして掲げています。
また、伊藤教授の研究分野はペロブスカイト太陽電池に留まらず、水素燃料電池やソーラーフューエルにも及びます。特に、兵庫県の水素戦略において中心的な役割を担い、地域のエネルギー転換にも深く関与しています。学術界では、日本太陽エネルギー学会関西支部長を務めるほか、学会内で新設された「脱炭素ソーラーフューエル部会」の部会長を務められるなど、次世代エネルギー技術の社会実装と学術コミュニティの活性化に尽力されています。
本インタビューでは、伊藤教授が研究開発にかけている想いや、ご研究開発分野とその意義について、お伺いしました。
研究内容
劣化要因の特定
伊藤研究室は、ペロブスカイト太陽電池の劣化要因として、光、水、酸素が関与していることを初期に発表した研究グループの一つです。
多孔質カーボン電極の採用
他の研究機関が変換効率を重視する薄膜型(スピンコート法など)を主流とする中で、伊藤教授の研究室は耐久性と低コスト化に優れる「多孔質カーボン電極」を用いたスクリーン印刷技術に注力しています。このアプローチは製造プロセスが安価であり、製品の耐久性が高いという利点を持ちます。
✅耐久性の実証
CH3NH3PbI3を使用したセルにおいて、「8585試験」(温度85℃、湿度85%の環境下での耐久試験)で3000時間以上の耐久性を達成しています。これは、初期効率の80%を維持する時間であり、実用化に向けた高い信頼性を示しています。
イオン拡散メカニズムの解明
材料内のイオンの動きが効率低下の要因となることを突き止め、特にメチルアンモニウムから発生する水素イオンが拡散に関与する可能性を指摘しています。
代替材料であるホルムアミジニウムではイオン拡散が少ないことを実験的に確認し、論文として発表しました。この「イオンの拡散ロスをどう防ぐか」というテーマは、現在この分野における主要な研究トピックとなっています。
その他のご研究テーマ
水素発生セルや、水素燃料電池のご研究にも取り組んでおられ、学内で「FCV製作同好会」の活動を指導なさっています。バイオディーゼル生成時の副産物であるグリセリンを直接燃料として利用できる燃料電池触媒の研究も行っており、研究室内の学生さんの卒業研究テーマとなっています。これは、高圧管理が必要な水素に比べ、アルコール系の燃料が扱いやすいという利点に着目したものです。
学外でのご活躍(抜粋)
詳細は伊藤研究室ホームページをご参照ください。
日本太陽エネルギー学会
関西支部の部会長を務めておられるほか、2025年11月に新設立された脱炭素ソーラーフューエル部会の部会長でもいらっしゃいます。
播磨臨海地域カーボンニュートラル推進勉強会
学識担当者として、提言書の作成等に携わっていらっしゃいます。
株式会社先端化学研究所
INTERVIEW
-ご出身について教えてください
京都大学工学部石油化学科の出身です。ノーベル化学賞の福井謙一先生がいらっしゃった学科で、そこに惹かれ入学しました。高校時代はボート部に打ち込んでいたのですが、当時のボート部強豪と言えば東京大学・京都大学であったことも後押しでした。
-ペロブスカイト太陽電池との出会いを教えてください
太陽電池との出会いのきっかけは、アフリカの大飢饉でした。
連日の報道に触れるうちに、根本的な解決のために何を学ぶべきかと考えるようになったのです。農学部の友人に意見を求めたところ、彼はレスター・ブラウンの『地球白書』を紹介してくれました。
様々なことを考えた末に行き着いた結論が、「安定的に供給可能で、場所を選ばず利用できるエネルギーの確保が不可欠である」というものでした。そのことから、太陽光ひいては太陽電池に着目するようになりました。
しかし当時の太陽電池は非常に高価でした。そこで24歳頃から、「より低コストで太陽電池を実現するにはどうすればよいか」という課題意識を持ち、印刷技術による製造という発想に至りました。
-伊藤教授は、すでに完全印刷プロセスによる超耐久型ペロブスカイト太陽電池の作製に成功されています。そのようなきっかけがあったのですね。
当時は、印刷によって太陽電池を製造するという取り組み自体がほとんど存在しませんでした。また太陽電池は電気系の分野という認識が一般的であり、周囲からの理解が得にくい面もありました。
そのような状況ではあったのですが、世の中ではちょうど色素増感太陽電池が登場し始めていたので、ぜひ学びたいと考えました。幸運なことに、京都大学石油化学科にはエネルギー変換を扱う研究室があったため、そこに入室しました。
-太陽電池の研究開発では、どのような歩みで現在に至られたのでしょうか。
低コストの太陽電池を実現するという目的のもと、ペロブスカイトが登場する登場するまでは、色素増感型、有機薄膜、化合物型、アモルファスシリコンなど、あらゆる種類の太陽電池研究に携わってきました。分野ごとに研究コミュニティが異なるため、その都度ゼロから人脈を構築してきました。
-ペロブスカイト太陽電池の研究開発は世界中で活発です。伊藤教授は、ご自身の現在の役割をどのように位置付けていらっしゃいますか。
現在は、多孔質カーボン電極を用いたペロブスカイト太陽電池に注力しています。この方式は耐久性に優れ、低コスト化にも有利です。国際競争力の観点からも、中国より安価に製造できるレベルを目指す必要があると考えています。
まずは量産化の実現、その後リサイクル技術の確立へと進めていきたいと考えています。将来的には、エネルギー材料を海外に依存しない体制の構築を目標としています。
―今後の研究開発について、具体的なビジョンを教えてください。
例えば関西地域では電力単価が1kWhあたり25~26円程度ですが、太陽電池によってこの水準を実現できるかが一つの目標です。2030年までの達成を目指していますが、量産化には多くの調整が必要であり、その進捗に依存する部分もあります。
また、大学発ベンチャーである株式会社先端化学研究所(https://www.senkaken.co.jp/)を設立しており、同社を中心にさまざまな企業との連携を進めていきたいと考えています。
研究を始めようとしている学生さんや、若い研究者へメッセージをお願いします
一概に言うことは難しいですが、それぞれの立場で、自身が取り組みたいと考えることに真摯に向き合うことが重要だと思います。私自身も、自分のやりたいことに取り組み続けて現在に至っています。「無謀だ」と言われるような挑戦であっても、それを前向きに捉えて進んでいく姿勢が大切ではないでしょうか。
御礼の言葉
この度は貴重なお時間を賜り、取材にご協力いただき誠にありがとうございました。 研究内容のみならず、学生との向き合い方や研究へのアプローチについて直接お話を伺うことができ、大変貴重な機会となりました。 心より御礼申し上げます。
他の対応事例はこちら
(飯田グループホールディングス様向け) ギ酸生成セル用自動計測システム
(飯田グループホールディングス様向け) 人工光合成・IGパーフェクトエコハウスとは グリーン水素パネル用のフレーム製作 【研究者インタビュー】慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 小尾晋之介 教授 羽ばたき翼が生成する渦流れの計測
(慶應義塾大学 工学部理工学部 機械工学科 小尾研究室向け) 垂直軸型タービンの翼周りの流れ計測
(慶應義塾大学 工学部理工学部 機械工学科 小尾研究室向け)
よくある質問はこちら
